アングラブックガイド

 

 

◆『ありきたりの狂気の物語』チャールズ・ブコウスキー
 

カリフォルニアの狂人作家、ブコウスキーの短編集。服役中の思い出や安アパートの変な知り合い、精神病院での思い出など。思わず目を逸らしたくなる世界を、乾いた文章で淡々と描く。決して美化されることの無い汚れた世界が、ブコウスキーの手にかかるとやけに美しく見えるのが不思議。              

(暁 壊)

 

 



◆『ジャンキー』ウィリアム・バロウズ
 

麻薬は生き方。ジャンキーとは、なろうと思ってなるものではない。ある日気がつくとジャンキーになっている。書かれているのは現実に麻薬を使い続けた作者の記録である。やめようと何となく思っては酒に溺れ病院の治療薬に溺れ、本気で辞めようと決心することも無ければ麻薬の常用を後悔することも無い。一文無しになっても、気がつけば売人を探している。『それでいいの?』と突っ込みたくなるが、そもそも麻薬に手を出す人間というのが案外こんなものかもしれない。どこまでも淡々としていて、自分の問題でもどこか他人ごと。注射の打ち過ぎで血管が壊れようと、悲壮感はあまり無い。これを読んで麻薬をやってみようと考える人は、周りがいくら止めてもいずれやる。麻薬を使うか否かの選択すら、もう運命なんじゃないかと。                

(暁 壊)

 

 



◆『夕陽はかえる』霞 流一
 

殺し屋アクションだが、全くスタイリッシュではない。全編通してふざけている。『断頭台のエコロ爺』『弔いの酵母菌』と、殺し屋たちの二つ名からして酷すぎる。が、凄く面白い。殺し屋は裏の顔、表向きはそれぞれ本職があるのだが、仕立て屋は物差しと鋏、天気予報士は傘、振り付け師は舞台の小道具で戦う。自分が殺し屋だったら何を武器にするか、考えてみるのも面白い。『血算(けっさん)』『入殺(にゅうさつ)』等、外で話しても大丈夫な偽装された殺し屋用語も楽しく、独特の世界観でありながら日本のどこかにこんな世界があるかもな、と思わせてくれる。        

(暁 壊)

 

 

◆『ドリームダスト・モンスターズ』櫛木理宇

 人は誰しも夢を見る。その日の出来事、無意識の感情、消えない悩み─捩れたそれらは時に悪夢へと姿を変え、身体と心を蝕んでいく。

 自身も悪夢に悩まされていた石川晶水は、ある日チビザル似の男子・山江壱に声をかけられる。彼の祖母である千代が営む『ゆめみや』は、他人の夢の中へ「入り」、心の奥深くに根ざす悩みの種を探す家業であった……果たして、晶水の運命は。

『ホーンテッド・キャンパス』シリーズの作者による今作品、現在三巻まで刊行されています。生々しく描かれる悪夢、「入る」時のゆめみ心地。絡んだ記憶が解かれて、明らかになる事の真相。ちょっとしたオカルトであり、またミステリーとしても楽しめます。

 それからクールビューティー鈍感ヒロイン石川晶水と、小悪魔系才能マンなチビザル山江壱の微妙な関係も見どころ。恋愛スペック盛り盛りな二人ですが、事件の時には互いの連携プレーが光ります。

 表紙の爽やかさに惹かれ、ドタバタ時々ラブコメ学園モノかな~と思ったら楽しい裏切りでした。夜中に読むとちょっぴり怖いかも? いや、壱が助けに来てくれるなら、それもまたいいか。           

(空師どれみ)

 

 

◆『チョコレート・アンダーグラウンド』アレックス・シアラー

 あるとき、選挙に当選した「健全健康党」は、「チョコレート禁止法」を発行した。国中からチョコレートをはじめとする甘いものが処分されてゆき、もし隠し持っていようものなら即没収、のちに再教育を施されることになる。

 そんな法律くそくらえ! と反旗を翻し、チョコレートの密造・密売に手を出した二人の少年が、最終的に革命をぶち起こす話。

 児童書なので知っている方も多いと思いますがあえて推します。読んだのは中学生の頃に一度きりなのですが、ひたすら面白かったです。同作者の『ラベルのない缶詰をめぐる冒険』もなかなかブラックでこちらもまたオススメです。

(横井けい)

 

 

◆『アウトレイジ』シリーズ 監督 北野武

 関東一円を取り仕切る巨大暴力団組織である山王会組長の関内は、傘下である池元組が、麻薬を扱う村瀬組と良好な関係を持っていることが気に入らなかった。そして、若頭の加藤と共にこの二つの組を仲違いさせようと企てる。その二人から村瀬をしめるよう命令された池元だが、兄弟盃を交わした村瀬に直接手を掛けるのははばかられる。そこで、配下である大友組の組長・大友にその厄介な仕事を任せる。

 騙し合い、裏切り、様々な思惑や欲望に翻弄されながらも、「昔気質」の極道である大友が裏社会を生き抜くストーリーです。義理や人情などの熱いものではなく、金や他人を踏み台にしてのし上がる冷徹な極道社会が描かれています。登場人物全員、笑顔が黒いです。

 台詞が少なめで、ヤクザ映画にしては静かな場面も多いですが、そのぶん一度爆発すると相手を徹底的に叩きのめす凶暴さが際立ちます。暴力・拷問の描写が特に生々しく、思わず顔をしかめたりしてしまう場面も数多くあります。終始重苦しく、一瞬でも気を抜くとその瞬間殺されるような緊張感がある映画です。

(錦織)

 

 

◆『欲望のバージニア』 監督 ジョン・ヒルコート

 アメリカの禁酒法時代に実在した、密造酒で富を得たボンデュラント三兄弟の話です。バージニア州で伝説となっている不死身といわれた兄弟を、三男ジャック・ボンデュラントの実孫が書いた小説を原作として作られたギャング映画です。密造酒を巡ったマフィアとの取り引きや悪徳取締官との闘争などを描いた血生臭い復讐劇。西部開拓時代を思わせるような独特のファッションや建物、車などの舞台セットも興味深いです。

 長男と次男は残虐で情け容赦ない人間ですが、三男のジャックは兄二人に比べたら喧嘩も弱くて頼りなく、野心はあるものの浅慮な面も伺える青年として描かれています。そのジャックが惚れている地元の神父の娘バーサとの不器用な恋愛も、攻撃的なこの映画に別の印象を与えています。そんな瑞々しい二人と対照的なのが、次男フォレスト・ボンデュラントと三兄弟の元に住み込みで働いている美女マギーとの大人な恋愛です。屈強で寡黙なフォレストは実は女性が苦手という人物。銃で何発も撃たれようが、首を切り裂かれようが生き延びる不死身の男が、ジェシカ・チャステイン演じるマギーの積極的なアプローチにたじたじしている姿も必見です。                 

(錦織)

 

 

◆『龍三と七人の子分たち』 監督 北野武

 前述した『アウトレイジ』などの任侠映画とは全くことなる雰囲気を持つコメディ映画です。引退して隠居生活を送る元極道の龍三親分がオレオレ詐欺に引っ掛かり、昔の仲間を集めてその詐欺師が所属している京浜連合という元暴走族の団体と戦う話です。問答無用で銃をぶっ放したり、バスを乗っ取って京浜連合のボスを追い回したりとやりたい放題の最強おじいちゃん集団が描かれており、メインキャストの平均年齢は七十二歳という大ベテランで固められています。

 ヤクザ的シュールギャグで溢れているこの作品は、世代を問わず楽しめると思います。

(錦織)

 

 

◆『レイヤーケーキ』 監督 マシュー・ヴォーン

 麻薬ディーラーのxxxxは仕事が好調なうちに引退をすることを予定していた。裏世界から足を洗う前に組織のボスから、訳ありの娘の捜索とギャング崩れの集団とのドラッグの取り引きという二つの依頼を受ける。それらを同時に進めていたのだが、取引したドラッグが別の犯罪組織からの盗品だということが判明し殺し屋から狙われたり、捜索中の娘の恋人が不可解な死を遂げるなど、簡単に終わるはずの仕事が思わぬ方向へと彼の計画を捻じ曲げていく。

 味方が敵に、敵が味方にと利害関係が次々と変化しつつ、次第に謎が解けていく展開が鮮やかに描かれています。賢く立ち回っているつもりだった若造が、それでも更に上の人間の掌の上で転がされている感じが、登場人物の大きさを表しています。どうにか生き延びようと奔走するxxxxが、失敗を繰り返しながらも次の策を弄する様子がダークな雰囲気で描写されている映画です。          

(錦織)

 

 

◆『レジェンド 狂気の美学』 監督 ブライアン・ヘルゲランド

 一九六〇年代に実在したロンドンの伝説的双子のギャング、クレイ兄弟を描いた作品。ハンサムで胆が据わっており、クレバーだが狂気も持ち合わせている兄のレジナルド・クレイと、精神が不安定で凶暴だが正直な弟のロナルド・クレイは恐喝・強盗・暴行などの犯罪を生業とし、ギャングのリーダーにのし上がった。ナイトクラブやカジノの経営で荒稼ぎし、政財界や芸能界のセレブリティとの人脈も有していた彼らは、ロンドン警視庁でさえ容易に立ち入れない存在となり、ロンドンの裏社会に華々しい巨大帝国を築き上げていく。しかし、ロナルド(ロニー)は、兄レジナルド(レジ―)のギャングらしからぬビジネスと、恋人フランシスとの約束で裏社会から足を洗うことに不満を抱いていた。イギリス犯罪史上において切り裂きジャックと並び語り継がれるクレイ兄弟の栄華と破滅を描いた話題作。

 一卵性双生児として生まれた二人は他人には理解できないほどの深い絆で結ばれており、それが愛情でもあり、同時に呪いのようでもあります。どれだけロニーが不安定で破滅的な行動をとっても弟を捨てきれない兄、精神安定剤を飲まないと暴走してしまうが実は繊細で傷つきやすい弟という異なるキャラクター像は魅力的です。このように性格の全く違うレジ―とロニーは、なんとひとり二役。

 六〇年代のロンドンの薄暗くもクラシックな雰囲気もとても美しく再現されています。ヨーロッパの上品な街並みや文化は視覚面でも楽しめると思います。

 カリスマ的ギャングとして存在を確立しているクレイ兄弟の、室内での乱闘シーンも見ごたえがあります。敵対組織との喧嘩前の軽口の叩き合いや刑務所の守衛との喧嘩など、戦い方でも差異のあるキャラクターであることを感じられます。             

(錦織)

 

 

◆『ロックンローラ』 監督 ガイ・リッチー

 ロンドン裏社会でギャングの下請けをするグループ「ワイルドバンチ」のリーダーであるワンツーは、裏社会の顔であるレニーに騙され多額の借金を抱えてしまう。レニーはロシアの大富豪ユーリと取り引きを始め、友好の証として一枚の絵を借りる。そんな中、ユーリに雇われている危険な雰囲気を持つ会計士ステラは、ユーリがレニーに渡すはずの現金を盗むようにワンツーに依頼してきた。ロンドン裏社会のドンであるレニーとロンドン進出を企てるユーリの間で動く金と絵画を巡り、ワンツーはじめ「ワイルドバンチ」のメンバーは奔走する。

 前述した『レイヤーケーキ』の簡易版のような物語です。割とギャグが多く、軽い気持ちで見られる映画なのでギャング映画をあまり見たことない方にもオススメです。地元のチンピラグループ「ワイルドバンチ」のズッコケ三人組が走り回っています。全くスマートじゃない仕事ぶりが愛おしいです。      

(錦織)

 

 

◆『パーフェクト・ブルー』 監督 今敏

 霧越未麻は、事務所の意向でアイドルから女優へと転身することとなった。以降、彼女は一言だけの端役から始まり、徐々にヘアヌード写真集だったりレイプシーンだったりアイドル時代とはかけ離れた仕事をするようになる。仕事は軌道に乗るが、かつてのファンは現状を嘆き、未麻も現状への不満を募らせるようになる。

 そんな中、未麻になりすました何者かが「アイドルを続けている未麻」を演じながら運営するウェブサイトが開設される。虚実織り交ぜつつもまるで未麻本人が書いたかのような子細な内容に、未麻は精神的に追いつめられていく。

 姿の見えないストーカー、彼女の周囲で起きる殺人事件、そんな中行われる二重人格をテーマにしたドラマの撮影、現実と妄想が入り交じる物語の結末はー。

 といった感じのアニメ映画です。気軽にオススメしてしまったけれど公開当時のレーティングはR15で海外ではことごとくR18認定です。「パプリカ」「千年女優」「妄想代理人」などで有名な今敏監督の初監督作品。公開時期も一九九七年とインターネット黎明期で、ネットというものにどこか〝アングラ感〟を感じていた頃(と勝手に思っています)の作品です。昔に一度視聴したきりなのですが、リアルとフィクションが入り交じる気持ち悪さがいつまで経っても忘れられません。     

(横井けい)

 

 

◆『G戦場ヘヴンズドア』日本橋ヨヲコ

「もしお前が、もう一度俺を震えさせてくれるのなら、この世界で、一緒に汚れてやる。」

 この作品をアングラ認定したら絶対怒られる。だけど中学二年生の五月、友達と遠出した横浜で初めて足を踏み入れたヴィレバンで、表紙に一目惚れして買った一巻は紛れもなくアングラだった。思い出補正って怖い。

 超人気漫画家の父・坂井大蔵に反発して荒れた生活を送りながら、ひそかに小説家を目指す堺田町蔵。一方、坂井大蔵に憧れつつも、母の治療費を稼ぐために漫画を描く長谷川鉄男。この二人がとあることをきっかけに合作で漫画を描くことになって、というストーリー。

 ざっくり言えば内面に抱えるトラウマやコンプレックスに悩まされたり時に励まされたりしながら生きていく高校生二人が魂削って漫画を書くよというお話です。高校生男子が漫画を描くという題材でよく比較されるのが「バクマン。」なのですが、青年向けということもあってかなりキャラクターが生々しく描かれています。父親に対する執着とか、友人や漫画に対する嫉妬とか、金のために漫画描くとか、でもそこでしか息が出来ない苦しさとか。すごく重たい。そしてとてもトゲトゲしている。でも根本にあるのは人の温かさとか力強さだから、全三巻読み終わったあとには爽やかな気持ちで本を置くことが出来ます。泥臭くて惨めでどん詰まりで、でもきらきらしている高校生たちの青春まんが。           

(横井けい)

 

 

◆『月光』ウチヤマユージ

 ある青年の住む戸建てには、厳重に施錠された地下室がある。一家惨殺、女児誘拐、監禁生活。猫と、少女と、ある男の奇妙な同居生活を描いた話。

 裏サイトで出会った三人が金目当てに強盗殺人をやらかすけどその家庭に実は綻びがあって、と書くとものすごいサスペンスの香りがするけれど、絵柄や演出等すごくのほほんとパッケージングされているおかげであんまり壮絶な感じとか悲壮感がありません。しかし逆に言えば、とぼけた顔して中身はかなりえぐいんです。のほほんとした日常の影に常に陰惨な事件が付き纏っているというわけで、節々にそれが感じられてしまう。好きな人はどっぷりハマる気がします。私は好きです。

 また、同時収録の短編も好きです。とある女性の家から男の死体が見つかって事情聴取になる場面から始まるのですが、全体を通して即身仏になったお坊さんと、人生を捨てようとした女性の愛のお話としてまとまっています。こちらもなかなか奇妙な切り口の話なのですが、優しくて好きです。ラストで千切れてしまった手を取って、頬ずりするシーンがなんとも切ないような、甘いような気分になります。

 人によっては二編とも気持ち悪いと感じる人もいるかもしれないけれど、こういう愛の形があるんだと描かれているという事実が既に愛おしくてたまらんのです。同作者の他二作もオススメで、田舎の火葬場から老夫婦の遺体が見つかったことから始まる「よろこびのうた」、ゴミ屋敷に住む老女と行き場の無くなった前科者の男の交流を描く「葬送行進曲」も是非。全部最終的には純愛物ラブストーリーだと思っています。            

(横井けい)

 

 

◆『GANGSTA.』コースケ

 汚職警官・売春婦・マフィアにチンピラの闊歩する監獄都市・エルガストルム。そこで宅配から人捜し、挙げ句「お掃除」まで何でもこなす便利屋を営む二人の男―ジゴロのウォリックと、ポン刀を振り回す荒事担当のニコラスが巻き込まれる騒動を描いた漫画作品。映画のような画面作りにセリフ回しでめちゃくちゃ洒落ているのにやっていることはとても血腥い抗争だったり搾取だったり差別が根底にあったりして骨太な設定です。

 おっさんたちが大活躍するし女の子はかわいいしぶっ飛んでるやつはひたすらぶっ飛んでるし軽率な欠損とかあるのですみません正直に申し上げてこの作者さんに性癖開花させられたと言っても過言ではないです。中坊には刺激が強すぎたんだ……というのも実は個人ホームページ時代からのファンです。ダグはやっぱりダグだった。           

(横井けい)

 

 

◆『BLACK LAGOON』広江礼威

 少なくともアングラ特集に惹かれてこの号を手に取った諸兄には説明不要なのではないか。ボブは訝しんだ。

 舞台はタイの架空犯罪都市ロアナプラ。海外転勤の末、ロックこと岡島緑郎はラグーン商会という運輸業者で働くことに。笑顔の素敵な少女レヴィ、筋肉ムキムキ強面上司のダッチ、機械いじりが得意なベニーといった仕事仲間に加え、美人だけど怒らせたら怖いロシア人お姉さんにやたらグラサンの似合う中国人のお兄さん、お転婆な金髪シスターに外からやって来る仕事人たちといった愉快な登場人物たちと繰り広げられる日常系ドタバタコメディーです。

(横井けい)