vol.8合評

 

 「弟と僕」 ます

◆ますさんは家族の明るさだけでなく、闇も描き出しているのがいいと思います。親子の複雑な人間関係、離婚という親の身勝手を、子どもの視点で描き出したのがいいなあと思いました。(長尾)

*微妙な心理状況を的確に描いていて、短い文の中でも切ない気持ちにもなり、兄弟の絆も感じられて、作品にひきこまれました。(せむせむ)

◆この作品には、なんの衒いも、気取った言い回しもなければひねくれた技巧もない。別段異質な人物設定もありません。しかし《目》があります。言うなれば向かい合う《鏡》です。「僕」は他者の《目》を通して自分を見つめ直す機会を捉えました。母の子であるもうひとりの人間、つまり弟という鏡を通して長いこと見ないふりをしてきた物事を見つめ直し、やがて幼い頃の自分自身に辿り着きます。ファミレスと公園はふたりの世界の大きさの対比だと思います。そうして弟が泣くのを見て、置いてきてしまった感情もろとも弟をかき抱く。かつて母があの頃の「僕」を置いてきたみたいにして置いてきた感情を認めるのです。「そういうのもアリだよね」と、グレーゾーンを残して許容するのです。「僕の選択は少なくとも間違ってなかった、あのときの選択もアリだった」「母親が同じだから、兄弟としてアリだよね」と。このシーンにはとても感動しました。入れ子構造になっているのも、このシーンを盛り上げるスパイスになっていると思います。そしてくどくないラスト。読者に考えさせる余白が残されています。余白は素晴らしい。小説を完成させてくれるものです。(長谷)

◆完成度高いな~っていうのが素直な印象。流石トップバッターだけありますね(川上さんは除いて)。う~ん、なんというか完成度が高いとしか言いようがないというか、読者が読みたい場面をちゃんと次に書いてくれてますよね。始めに弟と僕のシーンをもってきて、「実はこれこれこういうことがあってね~お母さんがね~それでね~じゃあ弟と僕始めますね!」っていう非常に読者に優しい。あんまり小説読まない私でも読めました(大嘘)。話の内容は「家族ってこんなもんだよな」って思う結構シンプル。最後のシーンで何か思うところがあれば良いのかな。兄弟になるタイミングって意外とこうあっさりしてるのかもしれませんね。そんなあっさりとしつつもちゃんと読ませるのは、シーン転換もそうだけど登場人物を上手く使ってるなぁっていう。お母さんはおいといて、父の性格とかも自分は似てるって表記するだけで「なるほどな~」って理解できるし、タクマ君との話では主人公の優柔不断?ではないか、難しい性格がよく表現できてるなって思う。う~ん、現実でもありそう。あんまり喋らない人ってこんな感じですよね。私はどっちかというとタクマ君だなぁ、と思いながら読んでました。最初は「タイトル直球だなぁ」って思ってましたが、読み終えると中々ドンピシャなタイトルだと感じました。確かにこれで捻りまくったタイトルつけてたらそれはそれで違う感あったかも。全体的にシンプルだけど、無駄なものをそぎ落とした結果がこれなんでしょうね。それにしてもクオリティ高いな~。文体も好きです。(しいたけ)

 

「虹の根元」 横井

◆情景描写が丁寧で、夏の暑くむせるような空気や、土の匂いが感じられるようでした。祖父との決別にうまく踏ん切りがつかない幼い少年の葛藤も共感できました。(錦織)

◆とてもよくできた作品だなぁと思いました。キャラクターの心情の伝わる文章と、情景を描写する文章とが、どちらも光って見えました。おじいちゃんが死んでしまったことをにおわせる場面では思わず涙が出ました。とても好きです。(ます)

◆読み終えて、とてもすがすがしい気持ちになりました。序盤から散りばめられていた伏線からラストはなんとなく予想ができていましたが、それがただの予定調和ではなくて。いわゆる「いい話」で終わったことに物足りなさを感じさせない作品には久しぶりに出会えたような気がします。(ひねくれているので、予定調和のまま終わると物足りなく感じてしまうことが多いんです…)終盤、おじいちゃんのお墓に辿り着いてからの展開が秀逸で、少し切なくてとても温かい感情が文章の端々に感じられたのがよかったのかな、と考えています。主人公の感情もとても鮮やかに伝わってきて、素晴らしかったです。(こうだ)

 

「アルバムの中の椅子」 長尾早苗

◆私は、長尾先輩と詩の授業を取って親しんでいたこともあり、先輩の柔らかくて優しい詩を読むのが大好きです。7号までは、猫野エミリーのペンネームで活動なさっていた先輩の、長尾早苗としてのほしのたね初掲載作品。長尾先輩らしい、家族の風景。暖かな家庭が目に浮かぶと同時に、いつかは離れなければならない家族という存在を考えさせられる詩でした。(小澤)

 

「誰かの願いの叶うころ」 石津馨

◆長編小説の中のワンシーン、だと思う。アオバ、山下、桐嶋、来海、彼らはなぜ一緒にいなければならないのか。納骨室のネックレスは何を意味するのか。母親を殺したアオバに、なぜ桐嶋は優しく接することができるのか。語られないことの方が多いからこそ、引き込まれてしまう。アオバの、「もし生まれ変わって、家族になれたら…」という言葉からは、それが決して叶わないどころか、今の関係すらも危ういものだと想像させられる。住職から家族のようだと言われて安心するのも、桐嶋が「捨てない。永久だ」とあえて口に出すのも、いずれ来る崩壊をぼんやり自覚しているからでは、と考えた。彼らは(おそらく…)カタギではないし、ありきたりなハッピーエンドも無いと思う。それでも、何らかの形で救われてほしい。だから、機会がありましたら続きをお願いします。(暁)

 

我が家のたまご」 河合舟

◆この頃、美味しそうに料理を描写している作品がとりわけ印象にのこるよういなっているのも関係していると思われるのですが、1週間の中でそれぞれ別の卵料理が、それぞれ別の人物によって、異なる印象・意味合いをもたせて書けているのがとてもよいと思いました。帰省した実家で味わう母親のオムレツから始まり、どこの家のお父さんも後片付けはしないのだと改めて納得させられる父のオムレツなどを経て、家族みんなで囲むすき焼きのなんと美味しそうな描写なことか。年末に読み返したとき、あふれ る食欲を抑えきれずに家族ですき焼き食べてしまったくらい、情景をよく表現できていて凄いと思いました。他の家族特集の作品と比較すると、話の設定や展開に大きな波はありませんが、主人公の帰省した1週間の様子がテンポよく進んでいくので、わかりやすく入り込みやすい作品で、共感性がとても高い作品だと感じました。(藤沢)

◆たまごには家族、家のすべてがつまっているように感じます。色々な料理が作られるし、家には欠かせません。それを描けているのがいいなあ、と思います。(長尾)

◆日記のような形式で書かれており、その日の食事を作る主役がどんなものを作るのかが細かく書かれていて、家族との食事が恋しくなりました。もう自分たちも大きくなり、実家を離れなければならず、家族全員で食卓を囲むことが難しくなるということは、偶然にも近頃私も考えていたので共感するとともに寂しさも感じました。(錦織)

◆読みやすくテンポの良い日常的な場面・会話と、誰しもがすぐに頭の中に思い描けるようなついお腹を鳴らしてしまうような卵料理の表現のバランスがよかったです。(中野)

◆「孤独のグルメ」のドラマが好きで、その時間帯にテレビがついていると見たりしていたのですが、それに近い魅力を感じました。登場する卵料理がとても魅力的で、さらに関西弁(で合ってますかね…?)で交わされる家族の会話もとても自然で心地良く、文章自体もとてもするすると読み進めることができました。登場人物の数も割合多いにも関わらず、キャラクターもとても立っていたためわかりやすかったです。読んでいてとても気持ちがよく、またとてもおなかがすく作品でした。(こうだ)

 

「正反対、だけど愛おしい」 宙

◆実在する東野圭吾の小説が登場し、それに人物の心が託されているところがいいなあと思いました。その作品を読んだことのある人なら深く共感できるのではないでしょうか。「家族」というものが決して温かく優しいばかりではなく、時には厄介であることが描かれていて、切なさがある。けれど「家族」を諦めないところに収束していき、若い少年少女の繊細な心情と強さ、「家族」の姿を感じました。(浅井)

◆主人公のネガティブさと途中に訪れるシリアスさを感じさせない、明るく瑞々しい文章でとても読みやすかったです。主人公のネガティブさは共感できるところもあり、彼女が人付き合いが苦手でも葵くんのために少しずつ成長してゆく姿が好印象でした。(河合)

 

「サムシング・フォー」 藤沢静雄

◆冒頭は、幸せな花嫁の姿が丁寧な描写で描き出され、心地よく読める。そして、それを見ている新婦の弟という視点が明かされ、引き込まれていきました。弟と義姉というやや距離感のある関係の2人が心を通わせるさまに、「新しい家族」の愛おしさが表れているなあと思い、思わず目頭が熱くもなりました。(エミリーが素敵な女性すぎる!)家族と家族とを結びつける「結婚」というテーマが、優しく穏やかな文章で紡がれ、幸福感にあふれた素敵な作品でした。(浅井)

◆海外にある映画やドラマを、1シーズン切り取って読者に見せる様な内容で、登場人物それぞれに今回のエピソード以外にも、生い立ちや日々の出来事があるのだろうと思わせられました。地に足のついた、実在しているかのような登場人物が、素敵でした。(鳥谷)

 

「庭師と苗床」 こうだ葵

◆植物しか食べられなくなった男と、寄生している薔薇に蝕まれていく男の交流という、実に奇抜な設定ながら、一種の爽やかささえ感じられる良い作品でした。極上の味がした薔薇が実は人に生えていたものだと主人公が知ったとき、少しカニバリズムを連想してしまったのですが、互いの奇病を通じて短い間ですが確固 とした友情を築いていく様子の描写により、途中で抱いた恐怖感というか薄暗い印象は一掃されました。ある意味、奇怪・奇妙極まりない立場に置かれた二人ですが、主軸はあくまで互いの奇病ではなく友情の成立に置かれている作品であり、奇病の設定がそれをより際立たせていると感じました。あとこのごろ、料理を美味しそうに描写している作品をとりわけ好むようになってきているため、薔薇を食べたときの描写がとても美味しそうだったのも個人的に好印象を抱いて一因だと思います。(藤沢)

◆花を食べると肉の味がする、という設定に納得してしまった。食用の花を口にいれる時の小さな罪悪感を思い出す。切り身にされた肉よりも、確かに命を食べているという感覚が伝わる。それも、主人公が食べるのは人体に生えた赤い薔薇の花である。血の滴るような茎の切り口、さあ食べろと言わんばかりにほぐれる花弁は、ローストビーフの味がする。血生臭い残酷なお話になってしまいそうなのに、文がとにかく綺麗というかあっさりしていて、また主人公二人の会話が妙に能天気で危機感を感じさせない。彼らの関係が友情なのか、単なる食欲なのかも曖昧で、人によっては毛色の違う吸血鬼のお話にも読めるだろうし、恋愛小説にも読めると思う。彼らがなぜこんな運命を背負ってしまったのかも不明だが、互いが出会うためだったんだろうな、と考えるのが(私としては)ぴったりな気がする。(暁)

◆植物しか食べられなくなり、しかも植物から肉の味を感じるという設定がとても新鮮で面白いと思いました。体から薔薇が咲く樹も誠も、「何故そうなったのか」が描かれていないところがミステリアスで良いと思います。(錦織)

◆「ある日を境に、僕は植物しか食べることができなくなった。」っていう一文は秀逸ですよね。この書き出しだけで「ある日っていつだ?」とか「野菜じゃなくて植物?」とか色々想像出来るし、読者が「この作品、ちょっと読んでみようかな?」って思うことが出来ます。非常に個人的な事情になりますが、最近小説に伸びる手が重かった私でも結構さらっと読み始められました。更に個人的になると、「僕主人公」だったり「植物しか食べることができない」っていうのがツボだったんですよね。そういうの大好物なので。内容も「ちょっと不思議」。変な研究所で変な研究者にあんなことやこんなことされるのかと思いきや、闇医者とは言えちゃんと医者やってるし、入院患者もまともだし、最終的には庭師ですよ。起こってる事象はとんでもないのに現実やっちゃってる。でも、「いやいやおかしいだろ」って突っ込むほどでもない。ちょっと不思議な世界を読者もすんなり受け入れられるのが手腕かもしれません。全部おかしくすると「ちょっと不思議」どころじゃなくなるし、かと言って現実的すぎると「ちょっと不思議」の魅力がなくなってしまう難しいところだと思うんですが、この作品はどっちも絶妙な按配に出来てると思います。少し気になったのは、私もよくやってしまうんですがこういうちょっと不思議な小説の主人公って大体がどもりがち(「えっと」「あ、あの」とか)で大人しい(人生に関わる大事なのに押されるとすんなり承諾しちゃうとかの)少年なんですよね。いや、それがテンプレなんだと言われればそこまでなんですが。折角なので、最後の庭師になるのは受け入れるときに主人公自身のエピソードというかもうあと一押しがあると主人公がもっと魅力的になるかもしれないなぁ、と思いました。でもこれぐらいの軽さが丁度良いのかな。書いておきながら、自分でもどっちが良いのかはわかりません。どうでも良いんですが、マコちゃんって可愛いしなんか主人公マコトよりマコちゃんっぽい。マコちゃん呼びでも良いのに!って一人突っ込んでました。そこは樹君推すとこだろ~おいおい~(錯乱)(しいたけ)

◆人体そのものではなく、人の体に咲いたバラを食べる行為が、カニバリズムの境界線にある気がしました。食べているのはバラだけれども、それを育んだのは人体。そのことが絶妙な背徳感を生み出していて、読んでいておかしな快感を感じました。自然全体で考えたとき、動物が死んで土に還り、養分を得て植物が育ち、その植物を動物が食べ、を繰り返しているわけですから、その図を究極にシンプルにした形がこの物語なのかなと思いました。(藍崎)

 

「暮れる日と踊る」 N6

◆なかなかヘビーな冒頭でしたが、話がすっきりとまとまっていて読了後は読んでいるこちらも救われたような気持ちになりました。情景描写がとても細やかで音だけじゃなく臭いまで感じられるようでした。主人公のネガティブ思考というか、「もしも〜だったらこうするのに」という妄想は私もよくやるので、追い込まれてるとそういうこと考えちゃうよねと思わず共感しました。(河合)

 

「しろがねの仮面」 長谷潤子

◆1場面しか使っていないのに、鏡のように人間関係を映しだした作品だと思います。時間帯もうまく使えていて、すごいと思います。朝陽が昇ってくるシーンが印象的でした。(長尾)

 

「不可思議を、一匙」 暁 壊

◆前々から暁壊さんの作品には毒とでもいえばいいのか、何とも言えない味があり、目を見張るものがあるなぁと思っていたのですが、今回は暁壊さ んの独創性が掌編(?)の中にいかんなく発揮されていて、とても面白かったです。私はあまり暁壊さんのような、不条理というか不可解というような作風(褒め言葉ですよ!上手くいえないだけで褒め言葉ですよ!)が書けないので、圧倒されると同時にとても感心し、楽しむことができました。個人的には【ドッペルゲンガー】と【合法カクテルドラッグ】が好きですが、一番意外性があって驚いたのは【誰かの漂流記】です。(藤沢)

◆ほんの一匙ずつすくわれたいろんな後味のするお話を、一匙ずつ味わえました。誰もがそうでしょうが、わたしも鬼退治の日記にはしてやられました。日記的な物語言説といえば言わずと知れた『瓶詰地獄』ですが、暁先輩は惨憺たる地獄の味すら、さっと一匙、爽やかにおすすめしてくれるんですよ。一匙分の味見だからこそあの後味なんでしょうけど、なにぶん酔狂な客ですから、「ぜひこれを鍋かたけ譲ってください」と申し出たいですね。9号はミステリがテーマですが、この話のどれか1遍でもお書きになるのでしょうか。たとえそうでなくても、先輩はこの手の小説はほんとにお上手ですし次号でも素敵な作品を味わえるにちがいありません。(長谷)

◆所謂掌編集? なんだかんだでストーリーづくりが上手いなぁっていう印象。個人的には映画館が一番好きです。確かに「ちょっと不思議」なのかな。暁壊さんの作品の登場人物は漏れなくどこかのネジが外れていて「いやいや、それはおかしいだろ!」って私なら突っ込むことも平気でスルーするので、今回もちょっと不思議どころか「いやいや」ってのも多かったです。でもどれも納得出来ちゃうんですよね。それが魅力なんだと思います。折角だから、最後にはそれぞれの掌編の登場人物が一同に介して何かあるともっと不思議なことが起こるような気がしました。折角、それぞれあるかなそこが勿体ないかなって。「う~ん、一匙?一匙だから…」って思ってなんやかんやで、実は全部の掌編に同一人物がいるのかも、とか考えて読み直してみましたがそうでもなさそう? でもこうやって読者が色々考えられるのも楽しいですね。各々の話はどれも面白いです。ちゃんとオチがついてるのもあれば、読者がオチをつける(読者が「えっ、おいおい」って突っ込む)のもあって、リズムが小気味良い。面白かったです。でも折角だから(以下略)そして受賞おめでとうございます!(しいたけ)

◆ちょっと毒のある不思議な話たちですが、ひとつひとつはごく短いため重くならずに最後まで楽しんで読めました。藤子不二雄の短編集みたいだなあと感じました。好きです。(中野)

◆どの話も微妙なさじ加減で毒が含まれており、特に「誰かの漂流記」はまさかのオチに思わず笑ってしまいました。ぞくっとするものや、笑えるもの、今まで読んできた先輩の作品の魅力がたくさん入っていて、フルコースを味わった贅沢な気分になりました。(河合)

◆背筋にくる内容ながら、描写に直接的なグロテスクさがあまりなく、間接的に、身体や食などの肉周りを織り交ぜる文章が良かったです。それぞれに『トワイライトゾーン』などのタイプに似た、不気味さを感じます。(鳥谷)

◆とにかく一つ一つのお話の持つ魅力がとても濃く、一作読み終えるたびに次はどんなお話なんだろう!とわくわくさせられました。特に好きだったのは【誰かの漂流記】で、最後の一文には度肝を抜かれひやりとしました。今回は合同誌なので作品のフォーマットが決まっていますが、ご自身で自由に文章のレイアウトを変えられるような作品形態だったらもっとこの魅力を活かせたのではないかなとも感じました。それこそあの最後の一文はまるまる一ページ使ってもいいくらいのインパクトがあったと思います。あれだけの短さでお話をまとめられる能力も、とてもうらやましいです。またもしこういったシリーズのお話を書く機会があれば、ぜひ読ませていただきたいなと思います。(こうだ)

 

竜の王と月の花」 橙雫れき

◆多くの設定を感じさせる作品でした。わたしはこれを推したいです。もしかしたら尻切れトンボの感が否めない人がいるでしょうが、このくらいの分量がベストだと思います。この作品は読後感がさっぱりしていました。おそらく生と死が隣り合わせている静けさを感じたからです。息絶えると息づく花。この設定が憎いです。しかし彼の死は物悲しくありません。実に淡々としています。ここがこの作品のいいところだと感じます。死は門出。たとえ悼んでも、式が終われば日常へと戻っていく。あの竜に王はいなかったけれど、この少年には竜がいる。パートナーがいない竜の気持ちは判らない。だって自分じゃないから。わたしがいつも言っているのは、橙雫さんの作品は常に絵本然としている、ということです。決して登場人物を見放さない。人物一人ひとりに愛があります。ハードボイルドさを保ったまま読者に寄り添ってすすんでいく物語言説、要するに展開と語り口にギャップのある物語の進み方は彼女の強みです。(長谷)

 

表紙 なま

◆小箱を開ける少女という図案がとても印象的で、雑誌を開いて読んでみたいという気持ちを引き立ててとてもよかった。(藤沢)

◆一枚で本の内容を表現されていて、素晴らしいと思います。(小澤)

◆心臓をギュッとつかまれたような切なさがとても好きです。(河合) 

 

「ゲストエッセイ・あやうい根っこにきらめく葉っぱ」 川上未映子

◆わたしも川上さんと同じような意見を「家族」に対して持っています。なので、安心しました。あやうい根っこにきらめく葉っぱは、ほしのたねのアイコンにも重なりました。「家族」は血のつながりだけで構成されているのではなく、ほんとうは他人なのだ、とふと思う瞬間があります。それを描き出せているのがいいなあ、と思いました。(長尾)

◆「家族」に対する考え方にこんなものもあるのだな、と、少し驚いたように感じた。こう感じることができれば楽になる、というケースにある人も、きっといるのではないだろうか。(安間)

 

「エッセイ・スパイスをひとふり」 浅井

◆夕飯がカレーだと聞くと嬉しかったことや、カレーをつくるときいつも家族全員分くらいの量を作ってしまったり、自分のつくるカレーの味が、教わってもいないのに、母のカレーの味に似ていたりと、共感できる点が多くて驚きました。「カレー」について書いたエッセイというのも興味深かったです。(錦織)

◆読んでて凄い共感しました。私も五人家族なので、カレーは鍋いっぱい。それでも2日目に未だ残ってたりするんですから、母はどれだけのカレーを作っていたのか。かと言って、流石に子供達が成人すると食べる量も減るから、今は一晩で空っぽになるんですけどね。でもそれも寂しく感じるんですよね~。これ、結構カレーあるあるだと思います。「血の繋がりよりもー」っていう文、なんかじんわりしました。カレー作ろうかな。。(しいたけ)

◆私はカレーが嫌いなのですが、実家のカレーだけは大好きで、久しく口にしていないなぁと寂しくなりました。(石津)

◆カレーのお話、というだけで、とても落ち着く。浅井さんらしいやさしいエッセイだなぁと思いました。(ます)

 

エッセイ・ポンコツ姉妹のお姉ちゃん」 もち子

◆就活のことでいろいろと悩んでいたので、いいなぁ、こんなところで働いてみたいなぁと思いました。(ます)

 

「『境界の皇女』ができるまで」 吉村りりか

◆創作をすることについて、改めて考えさせられました。書きたいから書く、書きたいものしか書きたくない。ずっとそう思ってきたはずなのに、いつの間にかどう書いたらうけるだろう、と考えるようになっていたので、吉村さんが指摘を受けた『あなただけの物語を書いてください』という言葉にはっとさせられました。吉村さんはもちろん大変な努力をされましたが(野宿しよう、など生半可な気持ちでは思い付きません)、何よりも自分の世界を信じ続けたことが結果に繋がったのだと思います。改めて、おめでとうございます。(暁)

◆吉村さん、小説おめでとうございます!実は私も予約して購入いたしました!ファンタジー…素敵。イラストも小説の雰囲気にぴったりで、とにかく主人公可愛い!してました。これからも頑張ってください。応援しております。(しいたけ)

◆まず、吉村りりか先生、デビューおめでとうございます! 同じメンバーとして、とても嬉しく思います。このような特集を設けたことにより、プロの人も書いてるんだ、面白そうと様々な方々に手にとって頂ける機会が増えたと思うので、凄くいい特集でした。(小澤)

 

「ほしのたねによるすこしふしぎブックガイド」

◆調子のって紹介文長くしすぎました、すみません。もっと要約力を鍛え ます。あと意外と知っている作品(『ハクメイとミコチ』など)もありつつ、やはり知らなかった面白そうな作品の紹介もあり、とても楽しめました。やはりブッグガイドは知らなかった作品について知ることができ、また「あの作品を書いた○○さんはこんなのを読んでいるのか」と知ることで、個々人の創作活動の参考にすることができると思うので、文芸創作雑誌としては良い企画だと思います。(藤沢)

 

「ほしのたね@おしごと」

◆意外とエステティシャンの実情を知らなかったので、興味深く読ませていただきました。肌弱いからエステはあんまり行かないんですけどね。こういう技術の職業って調べたり話聞くと面白い。お仕事頑張ってください。(しいたけ)

◆ありそうでなかった切り口のコンテンツだったので面白かったです。会員も卒業生の方が多いので、ぜひ可能な限りこのコンテンツを続けてほしいです。(河合)