vol.9合評

 

「I(m)DOL(L)」 長尾早苗

◆side:AとBが呼応しているようで、アイドルとファンの少女とでは少しずつすれ違っているところがよかったです。目指していたものに届いたのに喪失感を味わうアイドルも、決して届かぬまま一生を終えてしまうと悟ってしまうファンも、両方とも切ない気持ちになりました。綺麗で可愛くて飾られ、でも決まったことしかできない。いい意味でも悪い意味でもアイドルは「お人形」で、タイトルが見事に内容と一致していると感じました。このアイドルとファンの少女が普通の友達として出会えていたら幸せだったかもしれないと思いつつも、そこは線引きされているからこそ夢を魅せることや夢を見させてもらうことが可能なわけで、アイドルの孤独さを噛み締めてしまいました。(月城)

◆いつも輝いているイメージのあるアイドルですが、人間は二面性があって当然なのにキラキラした笑顔と時間にしか需要のないアイドルって本当に幸せなの?とside:Aで感じました。side:Bでは、ファンの子のアイドルへの憧れが語られていて、キラキラしたアイドルとそのキラキラを楽しんでいるファンという素敵な関係に一見すると見えるけれど、そこには大きな意識のギャップと壁があって、どこまでも一方通行でしかないものなのだと考えさせられました。喋ることの出来ない可愛らしいアンティークドールが詩の雰囲気を作り上げていて素敵です。(涼風)

 

「君の天使は銀色の川で羽根をもがれて死ぬ」 石津馨

◆なんというか、誠に石津さん(作者)らしい作品だなぁと思いました。

うーん、文字するのは難しいんですが読後感が良いですよね。泳いだ後というか、雨降った後の早朝みたいな。

今作はタイトルが秀逸だと思います。こんなタイトル私もつけたいもんです。ほんと尊敬。読み終わった後に、これってどっち視点なんだろうなって思いますよね。どっちがどっちに対する「君」なんだろうって。

ただ正直、正直後半ちょっと難しすぎて一回目は「???」状態になってしまいました。難しいっていうか呪い…呪いなのか? 序盤から最後のシーン(高校)まではすらすら読めたんですが、高校のシーンから怒涛の展開過ぎて脳味噌が止まったというか。恵美って結局何だったんだろう?

それはおいといて、恵美と安里の探索パートは流石というか読んでてわくわくしました。何度も「あれ、これアイドルだよな?」って確認しながら。うーん、にしても現実的な探索パートですよね。フリーライターだったり、交通手段だったり、母親への会話だったり。違和感は全くなく読めました。しかしタイトルほんと良いなぁ。(灰音)

◆この作品は、ミステリー要素も含まれているようにも感じます。だいたい、変なひと(異界の者、ここでは松本)を出してしまうと、それにフォーカスが行きがちになって、あとのキャラクターの設定が曖昧になることが、わたしの場合多いのですが、今回は登場人物が三人以上出てきて、どれもキャラクターが立っているのがすごいなあ、と思いました。日本文学も、よく勉強されているのだなあ、と思います。川は三途の川のメタファーですし、太宰治の入水自殺も念頭に置かれたのでは、と感じます。最後の一行もぐっときますね。(長尾)

◆地の文に魅力のある作品。些細なこと、例えば気をつけないとスカートは座った時にシワになる。とか。そういう当たり前のことが、うまく切り取られていて読みながら共感していました。忘れていたものや見逃しがちなことを、見詰めさせてくれるお話です。(ヤンコロガシ)

 

「仮面舞踏会」 宙

◆学校生活で一度付けられたイメージってなかなか払拭できない、でも後々否定するのも体力がいる。結局仕方なくそのイメージ(仮面)をかぶって生活する。他人からの評価って確かに自覚してるものと大きくズレるともやもやしちゃうなあと主人公の感情とリンクしながら読めました。主人公のそういった葛藤が、再会した旧友と旧友の姉と接することで悩みながらも少しずつ晴れていく様子が、読んでいるこちらも前向きな気分になれて良かったです。(河合舟)

 

「ピンクの星」 涼風弦音

◆あざといく らいの魅力を振りまける人間というものは、実際には物凄く頭を使っていて、本当の自分とのギャップに悩んだりするものです。どうかすると『らしくない!』と言われてしまうから、ますます本当の自分が見えなくなって行く。クラスの人気者程度でもそうなのに、芸能人ともなると本当の自分なんて殺してしまうしかなくなるのかもしれません。そうなるくらいなら辞めてしまえばいいのに、それでもその世界にしがみ付くのは、顔も知らないファンの群集ではなく、たった一人の大切な人のため。星弥はファンなんて信用しないし、自分の可愛さがいつまでも通用しないことも知っている。演じているキャラクターからは想像できないくらいに頭が良くて、もしかしたら私の好きなあの芸能人も・・・・・・と 、余計な不安さえ抱いてしまいました。

一番大切な相手が姉であるが故の限界、アイドルとしての人気の限界、才能の限界……あらゆるものを受け入れて、それでも星弥はアイドルで居続けようとする。そんな姿を見てしまうと、もう『可愛い』ではなく『格好いい』としか言えなくなります。才能を自覚している自信満々な瑞月よりも、星弥の方がずっと格好いい!……と、お姉ちゃんが言ってくれたら大分救われるんでしょうけどね。(暁)

◆美園姉弟の距離感が切ないなあ、と感じました。2人の関係を姉/弟とアイドル/ファンといった対比で置いているのが面白かったです。兄弟姉妹は物理的に近い距離にはあるけれど、自分が家庭を持つとなると一番遠い存在なんですよね、当たり前なんですけれども。

「……姐さん、寒いからコーヒー淹れて」「美味しいのにしてよね」という彼の台詞が、決意にも強がりにも意地っ張りにも見えて、ああ男の子してるなあと、近所のお節介なおばちゃんのような気持ちで読んでいました。最初は彼があざとすぎるように思えて苦手だったのですが、男気見せていただきました。(横井)

 

「アイシング」 月城まりあ

◆うーん、チャーミングですね。可愛い作品じゃないですか。

文体も作品にあってる良い軽さだと思います。登場人物の可愛さが引き立ちますね。個人的に台詞のひらがな具合とか良いなって思います。「あたし」のときとか「みんな」とか、キラキラしてて読んでて笑みがこうね。

ありがりと言えばありがちな話ですが、キャラが可愛くて、アヤリンとえいみーの二人をもっと読んでたいなぁって気持ちにさせられますね。笑顔になれる作品ってこういうのかもな。何か元気出ました。(灰音)

◆主人公の気持ちに素直に共感でき、揺れ動く少女の心情を丁寧に描写している作品だと感じました。

変わらないと思っていたものが、予想外の変化を見せて行くことへの寂しさ、不安、苛立ち。そして見えていなかったものに気づいてからの前向きな姿勢といい、アイドルだけど普通の女の子でもある彼女の弱さや強さが生き生きと伝わってきました。(藤沢)

◆アイシングっていう比喩、いいなあ、と思います。可愛くて、甘くて、女の子だいたい好きじゃないですか。でも、アイシングがたくさんあると飽きる。甘ったるくなって、食べられなくなる。というか、アイシングって、食べるものではなく、見るためのものなんですよね。そこを「アイドル」と掛けたのが面白いなあと思いました。月城さんの作品は、わたしが学部時代のときから、よく読ませてもらっていたのですが、女の子と女の子の間の微妙な関係性を描くのが月城さん、うまいです。すごいなあ、と思います。恵実香と絢莉の51p.の衣装は、プリキュア初期を想い出しました。懐かしいなあ、と感じました。(長尾)

◆読み進めながら、二人のことを応援する気持ちが芽生え、場面が展開していくたびに興奮しました。

アイドルってこうだよなあ……その人たちの関係性を知ってさらに好きになるよなあ……と、ファンの気持ちを疑似体験しながら読みました。とってもキュンとするお話です。(ヤンコロガシ)

 

扉短歌 ヤンコロガシ

◆あっ確かにこういう怪盗いるなあ! と思わず笑ってしまいました。私の家にも正月にだけ現われてお年玉を盗んでいきます。この怪盗、家によっては後々返してくれたりする義賊っぽいのもいるらしいんですけど、皆さんはどうでしょう。我が家は見えない形で後々返ってきました。(河合舟)

 

 「赤い糸と子犬のロマンチカ」 灰音ハル

◆ミステリーでもあり、一日限りの冒険でもあり、青春の思い出でもあり、更にラブストーリーでもある……とこの作品の持つ要素を並べてみたところで伝わらないかもしれませんが、ミステリーだとしたら今作品集で一番読者が謎解きゲームを楽しめるストーリーだろうし、恋愛ものだとすればこれほど読者をやきもきさせる関係も珍しいんじゃないかでしょうか。細かい謎が次々出て来るので、中月君と一緒に考えたり悩んだり、ああそういうことか!と納得したり、気が付けば一気読み。今はスマホやパソコンの普及ですっかり見なくなりましたが、 昔は読者に挑戦する形の謎解き推理本が結構あって、紙とペンを傍らに頭を悩ませるのも結構楽しいものでした。この作品の終盤に出て来るミズ君の暗号は、読者もぜひ、紙とペンを用意して一緒に解いてみてください! ……私は解けませんでしたが…… 機械のゲームには無い魅力を味わえるかと思います。

途中途中に出て来る人物の濃さ、一生懸命謎を解く中月君とそれを見守る(?)人達とのやり取り、どれも絶妙に笑えるくせに絶妙に謎やピンチを残してくれて、最後まで気が抜けない仕上がりになっています。ミズ君、素直じゃないなあ……絶対両想いなんだけどなあ……すごく個人的な感想になってしまうのですが、彼らのような、『想いが通じていないと思い込んでいるのは当人だけ』と いう関係、好きです。周囲はきっと、皆わかっているけれど、やっぱり見守るしか無いのでしょう。危ういガラス細工のような恋愛、それが演技でも打算でもなくできるのは、やはり学生の間だけなのでしょうか。社会というものに汚されることなく小説家になったミズ君は、なまじ想像力が豊かで自分を客観視できてしまうが故に、余計に殻に閉じこもってしまう。中月君にその殻をこじ開けてもらいたかったはずなのに、いざこじ開けられそうになるとまた拒絶する、という……

本当は事実を知るのが怖い、という彼の本音は、彼の書いた小説『子犬のロマンチカ』の主人公そのままという気もします。

続編……無いかな……(暁)

◆始終爽やかで読みやすい印象を受けました。文化祭中の学校という舞台設定も楽しめましたし、暗号と解読も凝っていて良かったと思います。(藤沢)

 

「殺人狂時代のクックロビン」 暁 壊

◆殺し屋が合法化されたという設定が、非現実的な世界をより身近に感じられるキーになっていて、すっと世界に入り込めました。ちょっとグロテスクなシーンもあるミステリーなのにさっくりと読めて、それでいて重厚感のある物語に惹きこまれました。人間としてどこかしら欠落した殺し屋たちの個性がパズルのピースのように、ちぐはぐながらもお互いに綺麗に埋まっていって、読了後は大きく息を吐いてしまいました。(涼風)

◆題名から引き込まれますが、なにより複数の視点からの推理と、探偵役であり殺人犯でもある殺し屋たちの個性が独特の雰囲気を醸し出している良作だと思います。

どの登場人物も魅力的ですが、私としてはデュラハンさんが一番好きです。(藤沢)

 

「メランコリックヒーロー」 梅雨+ます+横井

◆面白いというかよくまとまってますね。3人合作の割によくまとまってる(二回目)。

いやぁ、よくできてますよね!

身内評って甘くなったり辛くなったりするけど、素直に良い作品だと思います。現代ミステリーと言うか、ミステリーなんだけど爽やかな物語展開が良いです。

あと主人公のキャラが良いですね。

良い意味で自己中。最初から最後までブレッブレですよね(良い意味で)。長男に当たるわ、心配してくれる同級生にイラつくわ、勝手に人を犯人扱いするわ。ただね、私が一番良いと思ったのは主人公を女子高生にしたことなんですよ。これ凄く良い。「すげぇ奴だな」って思っても、女子高生なら納得出来ちゃう。これが社会人とかだったら「おいおい」ってなっちゃうんですけどね。多感な時期の女子高生だからこそ、思いこんで行き過ぎた行動をするのも納得出来る。でもそんな暴走気味の主人公も、最後に少しだけ成長(?)した雰囲気で終わる。実際のところは何もわからないんだけど、好きな兄が死んだ後の気持ちの消化と目の前にいる長男への気持ちへの変化とかが現実的でそれも良く出来てるなって思う。「ばいばい、私のヒーロー」ってちょっと詩的なところも女子高生らしくて好き。そういうところが可愛いわよ。よく出来てるよね。こういう役って男主人公だと難しいんだけどね、主人公の設定ほんと素晴らしい。

どんだけ主人公について語ってんだよ、って話なんですが。あと脇役とかも良かったですね。物語展開も序盤~終盤まで変につっかかることなく読めました。文体の変化も、受け持つ部分が丁度良かったんじゃないかなって思いますよ。どこの章も作者の良いところが充分に出てました。作品の製作過程が気になる(笑)。(灰音)

◆これぞミステリー!という導入部にいきなり引き込まれました。

主人公が謎を追って行く部分も、どうなる?どうなる? と、ページを捲る手が止まりませんでした。欲を言うなら ば、修という人間についてもっと突っ込んだ部分まで知りたかった……どうしてプレゼントを捨てたんだろう、どうして誰も愛せなかったんだろう、それでも良い人で居続けたのは、本当に演技だったのか……読者が想像すれば良いのでしょうが、最後に咲が愕然とするほどのシビアな真実が待っていると期待していたので、少し物足りなく感じてしまったのです……。

するする読み進められる文章で一気に読んでしまったので、余計そう感じたのかもしれませんが……。

あ、黒羽根は死ねばいいと思います。

周りを見下して自分は何もかも知ってる振りをしながら、実際には何もわかっちゃいない。努力もしなければ反省もせず、ひたすらどこかで聞いたような言葉を偉そうに語るだ け。こういう不快の塊みたいな奴っていますよね。ずっと蚊帳の外だったくせにうるせえな今更かまってちゃんになってるんじゃねえよ、と、無性に罵倒したい気分になりました。これだけ感情を動かされる人物を描けるという点だけでも、流石だと思います。(暁)

◆いい意味で期待を裏切る展開となっていた。「修」の裏の顔が、きっと「ヤバい奴」だろうと予想しながら読んでいたが、まさかの真相で、話の展開もおもしろかった。(せむせむ)

◆最&高

王道展開こんちくしょうという気持ち。

主人公が手を上げるシーン、興奮しました。

三人で書いた作品とのことでしたが、しっかりまとまっていて、読み応えのあるお話でした。イチオシ。(ヤンコロガシ)

 

「タイムカプセルの中の温室」浅井

◆倒叙小説でもない限り、語り手である主人公のことを私は善人だと思い込んでしまう傾向があります。でも、この作品の語り手である陽乃ちゃんは、いい子だけど怖い。「いい子に見える子がなぜいい子に見えるのか」と突き詰めて考えると、自分をよく見せる術を無意識のうちに知っていて実行できてしまうという才能によるもので、それに気付く人は「いい子」のことが恐ろしくて仕方ない。

そして教室という狭い空間でできてしまう人間関係の複雑な部分がとてもリアルで、「休み時間に席を立たない子」のエピソードには衝撃的なまでに同意してしまいました。私は鈍いので当時は全然気にしていませんでしたが、教室で本当は何が起きているのかをしっかり見て把握できていた観察眼がすごいです。

テーマの目の付け所と、視点を変えながらそれを描いたところがすごくよかったと思いました。(月城)

◆久々に、浅井さんの小説を読んだ気がします。一年、たったの、一年が、どうしてこんなに長かったのだろう。浅井さんの大きな変化を感じました。今までの彼女の作品には、女同士の競り合い、だとか、恋人、だとか、があまりありませんでした。たくさん小説を読んだり、舞台を観たりしているのだろうなあ、と思います。この作品では。結局、最後は何も、分からない。ミカが誰だったのか、何を意味していたのか。七実はほんとうに生きているのか、タイムカプセルに入れた過去とは何だったのか。芥川龍之介の、「藪の中」もこのような「まなざし」と物語の終わりをしています。わたしは湊かなえさんを想起しました。作者本人にしか分からない結末。「いい子」とは。「ひとに好かれる」ことは、本当に幸せなのか。そのことを強く考えさせられる作品でした。(長尾)

◆誰かと思い出話をすると、同じ出来事でも全く違うもののように聞こえるという経験があると思うのですが、このお話はまさにそれだと思います。陽乃の一人称で語られるからこその情報の欠落と、そこに補完を行う月生のパートが絶妙でした。しかも2人の共有した時間を重ねるというよりは、月生パートが杭を打つようにピンポイントで抉りつつ埋めてきます。そこから鮮烈に世界が開けて、生々しさを纏っていくような感じがして、読んでいてとてもゾクゾクしました。

とても個人的な意見になるのですが、いい子でいることと人生を生きられることはある程度まで一緒のくせに隔たりがあるような気がします。その境目にあるのが地域なり学校なりという箱というか、彼女のいう「温室」なのかなあと。それがないことに気付いた陽乃は、きっとこれからが大変なんだろうなあと思わせるラストでした。とても面白かったです。(横井)

 

表紙 鐘

◆鐘さんのイラスト、驚きました! アイドルとミステリーという、二つのテーマを分かりやすく、一つの絵で描かれています。しかもかわいい...!(長尾)

◆今回の表紙は可愛くてテーマもわかりやすくてとても良かったと思います!

あと、写真の背景にイラストで人物などを重ねたりしてもいいかなと感じました。(月城)

◆アイドルとミステリが上手く融合して表現されていて可愛い。(藤沢)

◆表紙可愛い!素敵です! (灰音)

◆とっても可愛い!(ヤンコロガシ)

◆とても素敵です!特に探偵風コスチュームがクリーンヒットでした。ブーツに取り付けられた虫眼鏡に暗器好きの血が騒ぎます。笑(横井)